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Class for Everyoneインタビュー

Yahoo!基金では毎年助成プログラムを実施し、非営利団体が進めるプロジェクトの活動支援を行っています。
2013年度は、「フィリピンの地方で10校100PC、100%稼動プロジェクト」活動を行う特定非営利活動法人Class for Everyone(外部リンク)を助成対象団体の1つとして選定しました。
今回、その代表理事である高濱宏至さんにお話を伺いました。

いまそこにある技術の恩恵を世界に浸透させたい

Yahoo!基金事務局(以下、事務局):プロジェクトを始めたきっかけ、理念を教えてください。

Class for Everyone代表理事・高濱さん(以下、高濱):前職でSEとして楽天(株)のバックエンドの保守運用を担当していましたが、当時「アラブの春」(2010~2011年)での市民運動やオンライン教育の勃興をみて「インターネットは力があるな」と思いました。その一方で、日常的にインターネットの恩恵を享受できる人々は、世界的にみるとまだ少ない。そこで自分は「技術を発展させる」方向ではなく、「既存の技術を世界に生かす」という方向に関心を持ち、活動を始めました。

事務局:今回のパソコン納入先であるフィリピン・タナワン(Tanauan)市との出会いを教えてください。

高濱:タナワン市との出会いは、以前フィリピンでパソコンを小学校に届ける活動をしていたときに、縁があって声をかけていただいたことでした。タナワン市は大都市(マニラ)と地方のはざまにある工業都市ですが、農業も盛んで非常にゆったりとした時間が流れています。2013年の夏に30台のパソコンを市内の5つの小学校に納入したのですが、タナワン市で活動しているNGOから「より広域に導入できないか」とお話をいただき、今回Yahoo!基金の助成対象となった、10の小学校への100台の納入を企画しました。

フィリピンの学校教育は、修了率でみるとタナワンが含まれる行政区域(Calabarzon)では小学校で約77.12%、高校では約62.46%という水準(*)で、親の教育熱は高いのですが、家の経済的な理由で学校に通えなくなる子どもたちが数多くいます。

フィリピン統計機構サイト(外部リンク・英語)に掲載されている、フィリピン国家統計局の2008年版データ(外部リンク・英語)に基づいています。 その他のフィリピンの情報は、フィリピン統計機構が提供するこちらの情報(外部リンク・英語)に基づいています。

事務局:貧困からの脱出支援に取り組んでいますが、なぜ小学生への情報教育が課題解決になるのでしょうか。

高濱:重要なのはインプット・アウトプットする機会があって、それが評価される仕組みを知ることだと考えています。これはフィリピンでも実際にあることですが、動画投稿サイトに自分の歌を投稿することで才能が認められて、プロの歌手としてデビューすることがあります。「歌が非常に上手」というだけでは何も起こらないのですが、それをアウトプットする機会をインターネットで得られたことで、自分の仕事を作ったという例になります。誰にでもまねできることではありませんが、誰にもチャンスはあるのです。

より切実な問題としては、フィリピンでは高校に進学するとパソコンを使ったドキュメント作成の課題がよく出ますが、その心構えや技術的な準備ができていないと、課題作成ができないことで自尊心が欠如しドロップアウトする可能性があります。また、パソコンが使えないと安定した企業にはなかなか就職できません。情報技術の有無によって、機会選択の幅が大きく異なるという現実があるのです。

事務局:日本にも深刻な貧困問題や格差問題があります。国内の資産や資金を海外の課題解決に投入する意義について、どう考えますか。

高濱:他の国が悩んでいる課題はやがて日本の課題になるかもしれないし、そこで生まれた解決方法のなかには日本に転用できるものがきっとあるでしょう。世界は国という単位に分かれていますが、課題や解決方法は、必ずしも線引きできるものではないと考えます。

そのときタナワン市民が動いた

事務局:前回の30台納入プロジェクトでの課題を教えてください。

高濱:小学生に使ってほしかったのに、しばらくして訪問すると先生が使っていた点でしょうか。もっとも、学級によっては生徒が60人いたり、生徒たちを午前と午後で分割して教えたり……てんやわんやのところを手書きの管理簿で切り盛りしているわけですから、この結果は仕方がないと思います。単純に、現地の需要を理解しきれていなかったということでしょう。

しかし、これは全く予期せぬ出来事だったのですが、この30台の中古パソコンをきっかけに、先生(学校)側がパソコンの導入を、自ら行政に働きかけたようなのです。その結果、教育庁が予算を確保して、ハイスペックなデスクトップパソコンが各校に支給され始めています。私たちが30台を納入したのが2013年の春から夏で、業務用パソコンが支給されたのが2014年春ですから、わずか1年ほどでの変化になります。

事務局:すでに地域の意識を変えた手ごたえがあるということでしょうか。

高濱:このスピード感は、「全くパソコンのないところにパソコンがくる」というインパクト故でしょう。30台のプロジェクトは、地域住民のアクションにつながったという意味で大きかったと思います。そしてこのように教師専用のパソコンが導入されたことで、今回新たに納入するパソコンが子供たちに使われる土台がようやくできたのかなと感じています。

インターネット検索を「オフラインで」体験させたい

事務局:開発中の情報教育ツールの機能について。企画書では、オフィス関連ツールの使い方と同時に、「検索」に関する言及が多いですが、そこに注目する理由を教えてください。

高濱:まずインプット、すなわち自分が欲しい情報をインターネットで検索して引っ張ってくる力が必要だと思うからです。インターネット慣れしている日本人でも、検索の技術にはかなりバラつきがあって、リテラシーが高くない人はなかなか目的の情報にたどり着けないのではないでしょうか。

今回導入するツールの一番の特長は、「オフラインでも使える」ことです。インターネット検索そのものは難しいですが、学術的なWikipediaの情報を1台のローカルサーバーに保存し、他のパソコンでそれを参照するといったことが可能になります。さまざまな情報を調べるという体験ができるわけです。これから、学校でこのツールのテストを行っていく予定です。

事務局:インターネット検索そのものが難しいのは、インターネット接続事情がよくないからでしょうか。

高濱:それもありますが、そもそものインフラが脆弱(ぜいじゃく)だという現地の事情があります。先日も大型の台風によって3週間近く停電し、その間は学校も満足に開校できないという事態がありました。常時接続が前提のものに投資するというのは、現地では現実的でないのです。

事務局:実際に暮らす市民でないと利用ケースを考えることが困難だと想像します。現地の協力者などはいらっしゃるのでしょうか。

高濱:日本でもフィリピンでもフルタイムで携わっているのは自分1人だけですが、プロジェクトごとにパートナーがいて、プロジェクトにかかる実費などをお支払いしています。

30台プロジェクトの際に日本語を話すフィリピンの小学生とたまたま出会いまして、聞けば母親が日本人ということで、その子の父親に会うことになりました。

彼は後に今回のプロジェクトのパートナーとなったわけですが、いわゆる地元の名士で、行政とのつながりがあり、教育に非常に熱心でアイデアも多く、レストランの経営もしていて教師や大学生などと積極的にコミュニケーションをとっていました。今回のようなプロジェクトでは、現地の市民の関心を引き出して、自発的な行動を促せるように巻き込むことが大きな意味を持ちます。現地の課題は現地の人が一番理解しているので、そういう人を巻き込むのが重要でしょう。またフィリピンで学校を巻き込んだ企画をする場合、必要なドキュメントを必要な手順で作り、学校側の代表者とコミュニケーションをとれる能力が必要です。

台風被害への対策として中古ソーラーパネルの活用を検討

事務局:現在抱えている、資金面以外の課題を教えてください。

高濱:また台風が来てインフラが破壊されると、最悪の場合、計画そのものが頓挫する可能性があります。

事務局:運を天に任せるしかないのでしょうか。

高濱:リスクヘッジとして、自然エネルギーをパソコンとセットで導入することを考えています。例えば、パソコンの充電に関しては中古のソーラーパネルを日本で調達することを目指し、電力の地産地消を実践している任意団体と交渉しています。ソーラーパネルは20~30年の寿命を経て劣化しても、7~8割の発電が可能と聞きました。また太陽光による発電は、タナワンのみならずフィリピンの事情ともマッチしますし、そのような製品を導入することで現地の人々の環境に対する意識を変えていくこともできるでしょう。

事務局:パソコンの次は日本人がソーラーパネルを持っていくと。

高濱:そういうことです。Class for Everyoneで中古パソコンを集める仕組みを作り、さらにソーラーパネルで自家発電ができる準備もする。現地の課題から生まれた派生のアイデアではありますが、自然エネルギーでの電力供給に現地の人と一緒に取り組むことは、また違った意義もあります。

事務局:今後、予算があればやってみたいことはありますか。

高濱:フィリピンには公立学校が4万校あり、1校あたり10台導入すると、われわれの運搬コストは1台あたり3000円なので、計12億円かかるわけです。また、今のところさばける台数は年間1000台なので、完了まで何年かかるんだという話でして……。そこで、学校にパソコンを常備するのではなく、インターネットを体験できる「きっかけ」を用意する仕組み作りを考えています。詳細はまだお話しできませんが、環境や地域雇用にインパクトを与えるような新しい企画を準備中です。

事務局:Yahoo!基金のIT助成に応募した理由を教えてください。

高濱:「IT助成」というコンセプトに加え、Yahoo! JAPANが「課題解決」を広く公言する企業であることに魅力を感じました。われわれのようなNPOの活動は課題解決の連続で、ニッチで、多額の利益にはなりません。しかし課題を解決したいという両者の思いを重ね合わせたら、解決できるのではないかと思いました。

事務局:ソーラーパネルのプロジェクトや現在ご検討中の企画などを、助成金に頼らず進めることは可能ですか。

高濱:はい。所々でまとまった資金が必要ですが、その資金の効果が単発で終わるのではなく、例えば100万円の資金で、次年度以降毎年100万円の価値を生むようなサイクルにしたいと考えています。

事務局:Class for Everyoneの取り組みは、ITだけではなく政治からのアプローチとも相性がよい印象があります。政治家になろうと思ったことはありますか。

高濱:最近よく言われます。ここ数年間やってきたことは、現地の人々の目線での取り組みです。しかし世界の仕組みを現実的に変えているのは、政治や大きな経済の流れであったりするので、そういった世界の人たちのことを知ることも大事かなと考えています。さすがにフィリピンの選挙権・被選挙権は持っていませんが、最近では行政の方や影響力を持った実業家の方とも会う機会を増やしています。まだ29歳なので、学んでいきたいですね。

高濱 宏至
特定非営利活動法人Class for Everyone代表理事

1985年、熊本県生まれ。
立教大学法学部を卒業後、インターネットの可能性を感じ、楽天株式会社に入社しシステムエンジニアとして働き始める。2011年に同社を退職後、ICTを活用してフィリピンの子どもたちに平等な教育機会を創出することを目指し、NPO法人Class for Everyoneを創設。2年間で世界15カ国の学校などにパソコンを約1,000台届けつつ、フィリピンの地方やスラム街における活動を展開中。

取材日:2014年8月21日 聞き手:伊藤咲子

※内容はすべて取材当時のものです。

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