Yahoo!基金の「東日本大震災」復興支援活動

助成先団体へのインタビュー

悲劇を伝えているのではない、
そこから自分の命を守る術を
見つけてほしい

東日本大震災の被災地で伝承活動を
続ける方々に想いをお聞きしました。

「知ってほしいのは、悲劇じゃない」伝承活動について

──はじめに、それぞれの団体の概要や設立の経緯について教えてください。

公益社団法人 3.11みらいサポート 専務理事 中川政治(以下、中川) 2011年3月11日の東日本大震災で石巻市が最大の被災地となり、多くの支援が集まる中でのNPO、NGOの連絡・調整の場として、「石巻災害復興支援協議会(IDRAC)」が立ち上がったのが始まりです。当時は支援活動の連携推進をしていましたが、「語り部」の話を聞きたいという方が来てくださるようになり、震災を伝承する活動がはじまりました。
現在では仮設住宅の方々のコミュニティ支援や「語り部」の県をまたぐ民間ネットワーク「3.11メモリアルネットワーク」のサポートをはじめとする伝承団体の連携、「南浜つなぐ館」等の展示施設の運営など、伝承活動を通じて未来の「いのち」を守るための活動をしています。

一般社団法人 おらが大槌夢広場 代表理事/CEO 神谷未生(以下、神谷) 私たちは、震災から8カ月後の2011年11月に、岩手県・大槌町ではじめて町民によって立ち上げられた団体です。
設立当初は「復興食堂」やコミュニティスペースの運営、中高生の育成サポートである「子ども議会」の運営を行っていました。国の復興事業が軌道にのっていく中で、団体内で協議を行い、地域のニーズを支える団体から大槌の未来をつくっていく団体へとシフトしました。
当時、町外からたくさんの人が大槌を訪れるようになったことで、若い世代がそれに触発されて新しい価値観や生き方が共有されるようになり、「その流れを止めたくない」という話が団体内外で議論されるようになりました。そこで「語り部」の活動を事業化、現在ではそこから発展した「研修」事業を行っています。

インタビュー画像1

──Yahoo!基金の東日本大震災復興支援助成についてお聞かせください。

中川 Yahoo!基金で助成いただいているのは、伝承や防災に関する地域の課題をICTと組み合わせて解決していく文脈の活動です。震災当時、そこではどんな光景が広がっていて、どんなことがあったのか、どんな話があったのかということを、“見える化”するために、VRグラスで見ることのできる3Dモデルを製作、伝承施設で見ていただいています。4月からは津波の様子をプロジェクションマッピング化する取り組みもはじめています。

神谷 大槌にしかできないコンテンツを提供するためにYahoo!基金に助成をいただき、トライアルとして「大槌町役場前での津波到来までの40分間」をケースシナリオ化したワークショップを行っています。町長をはじめ幹部レベルの方も7割がなくなってしまった状況の自治体はここにしかありません。ここでは住民一人ひとりが生きていくために大きな決断をたくさんしなければなりませんでした。大槌町で起こった出来事を忘れないためにも、このコンテンツを大事に育んでいきたいと思います。

「知ってほしいのは、悲劇じゃない」伝承活動について

──ワークショップとプロジェクションマッピング、人によってどっちが響くか。
きっと相性もあるでしょうし、自分事にするきっかけがいろいろあるとはまってくれそうですね。

神谷 東北のことが自分のこととして広まっていないことが疑似体験プログラムを作り上げた理由のひとつです。東北の話を知らない人はいませんが、大事なことは「じゃあ、自分はどうする」、「自分と自分の大切な人を守るにはどうするの」ということだと思います。防災は、今この瞬間の日常の中にしかありえません。

中川 中には映画のようなものを求めている方もいらっしゃいます。僕たちは悲劇を伝えたいのではなくて、本当はもう一歩話を進めてほしいのです。あなたが地元にいるときに娘さんをなくす可能性だってある。そういう可能性があることをちゃんと伝えていかないといけないし、いざという時に自分や大切な方の命を守る術を見つけてほしいと思っています。

助けられたはずなのに
助けられなかった

──お二人が伝承活動を続けることには、どのような理由があるのでしょうか。

中川 東日本大震災での活動を通じて、「助けられたはずなのに助けられなかった」という悔しい経験がいくつもありました。個別のケースはいくつもありますが、大きなたとえ話で言えば、自衛隊の方が出動して一人の人を助けにいく、それには莫大な資金と労力がかかりますが、ことが起こった時点で歩いて避難していれば助かったと言うケースも圧倒的に多い。事前の準備と知識や意識さえあれば、より多くの人を助けることができたはずなのです。それは自衛隊やNPO、NGOが出動するよりもはるかに簡単なことです。
住まいや暮らしが落ち着きつつあり、3.11の強烈な印象が薄れてきた今こそ、大規模災害が想定されている日本でできることがあると考えました。首都直下の地震が起これば確実に多くの人が亡くなります。その時にみんなが行動できるか、そこに関してはまだ足りないところがあると思いますし、これから私たちが伝えていくべきことだと思い伝承活動を続けています。

唯一の団体となって
しまった以上、
やり続ける責任も
あります。

神谷 私たち団体は、もともとは伝承活動よりも、地域活性化の文脈で外から人がやってくる研修事業を行っていくことをイメージしていました。Yahoo!基金に助成をしていただいたことがきっかけで、そこであったことを伝えることが必要だと思い、伝承にフォーカスしていったのです。しかし気づくと「語り部」をしている団体はうちしかいない状況になっていたのです。
唯一の団体となってしまった以上、やり続ける責任もあります。
人口の約10パーセントもの方が亡くなったこの土地に、伝承活動をしている団体が一つしかない。そのことに違和感を感じており、広島での教育のようにアイデンティティーの一部になるような伝承活動が必要だと考えました。同じことを繰り返さないためにも、今までと違った継承の仕方を行っていきたいと考え、活動を続けています。

──活動を続ける中で、Yahoo!基金の助成を受けて感じたことがあれば教えてください。

中川 今でこそ「休眠預金」などの助成がありますが、当時は防災に関する助成はほとんどありませんでした。Yahoo!基金がいち早く防災に目をつけてくれたことに感謝しています。
僕たちの場合はチャレンジも含めた申請となってしまうため、行政の助成金がなかなかおりないという現実がありました。行政の補助金ではできないようなことに「面白そう」と共感してくれたことは本当にありがたいです。トライすることも含めて申請をさせてもらえる助成金はそれほど多くなく、そこには民間だからこそのビジネスの視点があるのだと思います。
基本は応援するスタンスであっても、団体に必要なアドバイスは厳しい目線でズバッと言ってくれる。東北にはなかなかない、ありがたい環境です。

インタビュー画像2
プロジェクションマッピングで3.11当時の避難行動が分かります

神谷 団体の未来にかけてくれることはとてもありがたいです。Yahoo!基金は、文化や価値を変えようというところにフォーカスしている点が良いですね。前向きですし、こちらもパッションの部分を伝えることができる。リスクがないと新しいものは作れないのです。私たちも今を支えることから未来をつくることにシフトしたように、Yahoo!基金も未来の可能性を見てくれる。メディアに関わっている会社だからできることだと思いますね。

浅利 団体や取り組みを育てる目線を含めてプログラムに組み込んでもらっているのはYahoo!基金ならではだと思います。応募した人が全員受けられて、落ちてもみんなにいいことがあるようにと作ってくれているのがありがたいです。社員さんがモニタリングしてくれることも嬉しいですね。フィードバックをびっしりくれて、とても参考になりました。

福島では
3.12だという人も
います。

──3月11日はどのように過ごされますか。

神谷 3月11日は義父の命日です。

浅利 福島第一原発の事故は3月12日だったので、福島では3.12だという人もいます。

中川 3.11は、亡くなった方の命日なので、お盆のように静かに過ごされています。東北で活動するNPOへの支援が減っていくので、仮設住宅から復興住宅のコミュニティづくりに尽力されている地元のNPOには、復興予算がなくなる来年以降を見越して、自ら無給で働いている方もいます。
しかし、そんな状況が続けば、被災地域に密着したNPOであるほど、いずれ活動できなくなってゆきそうです。私たちは、自団体だけではなく、東北全体の伝承・防災活動を支えるため寄付を募り、この厳しい現実を何とかできればと思っています。

大事なことは、自分の命を守る術を見つけること

東日本大震災での体験をもとにしたプロジェクションマッピングやワークショップを行い、新しい未来をつくるための伝承活動を行う両団体。大事なことは悲劇を知ることではなく、自分はどうするかを学ぶことだと2人は言う。災害が起こった時にあなたならどうするか。自分や大切な人の命を守るためにはどうしたら良いか、これを機会に考えてみよう。

  • 活動写真1
  • 活動写真2
  • 活動写真3
  • 活動写真4

団体紹介

一般社団法人おらが大槌夢広場

「大槌の未来をつくる」ため、大槌の人を育てる事業を行っています。伝承事業も、“人育て”の手段ととらえ、被災時や復興期に直面した課題をもとにした研修を提供しています。

公益社団法人 3.11みらいサポート

「つなぐ 3.11の学びを生きる力に」を新たなミッションと定め、震災を伝えると学ぶ人をつなぎ災害時に大切な命が守られる社会を目指し活動する団体です。

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